Mathpedia運営1ヵ月

8月14日にこの記事Mathpediaのドメインを取得して以降、早いものでもう1か月程度が経過した。その間に様々な協力者が集まり、続々と記事のコンテンツも追加されてきている。ここで、現状認識と今後の方向性の整理もかねて1か月の活動を総括してみたい。

●Mathpediaの運営体制

まず、プロジェクトの中核メンバーは数学市民(@infinity_topoi)と事務局長(@MathPJT_ADM)の二人である。この二人は別人なのだが、事務局長は裏方に徹しているためあまり認知されていないようだ。共に若かりし頃に若干数学に関わったことがあり、数学を理解したいという憧れもある人間だ。そして幸いなことに現在はあまり生活に困っていない事もあり、このプロジェクトを立ち上げた。

現在の運営体制としては事務局長に「数学市民化プロジェクト」という名前の個人事業を立ち上げて貰い、銀行口座等も設立した。というのも、以下に述べる通りこの事業は執筆謝礼等で少なくはない額の金額を動かすため、事業の資金フローを明確にするために事業口座等を作ったほうが良いとの判断からだ。また、事業での収益獲得も目指しているため、サラリーマンである数学市民が「副業」にならないように口座を分ける意図もある。この事業で得られた収益はすべて事務局長の個人事業に属し、数学市民は報酬も受け取っていない(ただし、この手法では市民からプロジェクトへの資金援助が税務上の「贈与」にあたり、課税対象となるのは誤算であった)。一定の収益化に目処が立てば、将来的には「公益性」を明記した一般社団法人のような形で法人化する事も検討している。

●Mathpediaの目指す世界

我々が目指しているものは大きく「数学の情報の整理」「数学による収益獲得」の二つだ。

数学の情報の整理の必要性については、多くの人は現代数学を学ぶ上で感じている問題意識だろう。残念ながら現代数学はお世辞にも見通しが良いとは言えず、非常に多くの複雑な概念が整理されないまま散らばっている事も多い。また、初心者の誤解を誘導する記法や議論だったり、現代的にはより優れた手法が開発されているにも関わらず、あまり知られていない事柄なども多い。結果、大学などの特定の数学コミュニティに属しているかによって、数学へのアクセス可能性に大きく差が生まれてしまっているのが現状だろう。その意味で、我々の活動は「周りに大学もない、地方に住む1人の市民にも、現代数学にアクセスできる道筋を作る」という事が目標だと思ってもらえればよい。

一方で数学による収益獲得は、こういった数学的コンテンツを作成していただける方々に、お金が行き届く流れを作るという事が目的である。上に述べた情報のオープン化だけが目的であれば、Wikipediaやnlabといった既存の数学データベースは存在する。しかしながら、これらは不特定多数による無償活動であることから、記事によってのクオリティのばらつきも多く、間違いなどがあっても放置されているのが現状だ。我々はこれを有償で依頼することによって、記事のクオリティを担保しながら「数学を整理することで報酬が貰える仕組みを作る」ということが第2の目標である。

現時点で、我々の活動には9人の執筆者が集まっており、それぞれ月額2万円ずつの執筆謝礼を支払っている。また、数学のオープン化を目標としているため全ての記事は無料で公開しており、今後も有料化などは一切検討していない。では収益獲得はどのように行うかというと、現時点ではAmazonアソシエイトを活用しており、今後はGoogle Adsenseなどの広告を貼ることも検討している。

●Mathpediaの収益モデル

ここで重要な点であるため、収益構造については詳しく説明しておきたい。

現在の収益源はAmazonアソシエイトというプログラムである。これはこちらこちらの記事に貼ってある教科書(例えばHigher Topos Theory)へのリンクから、Amazonのページに飛び、そこから購入した金額の一部が収益となる。ここで重要なのは、リンクした商品以外を購入しても(セッションが途切れなければ)収益になるという点だ。なので、その本を買う必要性は必ずしも存在しない。(ただし、リンクを経由してから商品をカートに入れる必要はある点は注意)。

実際のところ、現時点でリンクから直接購入された書籍は「層とホモロジー代数」と「圏論の基礎」のみだ。それ以外はメモ帳だったり、ティッシュペーパーだったり、お茶トマトケチャップなど日常雑貨ばかりだ。つまりMathpediaを見て「便利だな、もっとコンテンツが増えてほしいな」と思った方々が、Amazonで買い物をする際に一度経由していただけるだけで、無理のない形で我々の活動への寄付になるのである。無論、ついうっかり高価な数学書を買っていただいても何の問題もないのだが、我々は出来る限りユーザーの負担がない形でこの事業を行っていきたいと考えている

そのため、今後はGoogle Adsense等の広告掲載等を行う事はあっても、寄付の要請や有料コンテンツの配信は行わない方針だ。これは事業経営の観点では非常に厳しい条件設定ではあるが、仮に上手くいけば数学のみならず、学術界に新たな可能性を感じさせる試みであると考えている

●Mathpediaの経営成績

結論から述べれば、8月の経営成績は極めて力強い手ごたえを感じるものであった。

収入:Amazonアソシエイト 5,830円

支出:執筆謝礼2万円 × 9人, 協力謝礼5,000円 × 2人(執筆以外でお手伝い頂いた方々)=19万円

収支:マイナス18万4,170円(市民と事務局長で負担)

Amazon

これだけ見れば大赤字に見えるかもしれないが、この程度の持ち出しはそもそも想定済みだ。何の問題もない。むしろ、開始1か月で5000円もの金額を稼ぎ出せた事に驚きを禁じ得ない。

我々の最大の強みは「そもそも利益を【稼ぐ】つもりはあまりない」ところにあると考えている。幸いなことに市民にも事務局長にも経済的な余裕はあるので、毎月10万円程度の支出は社会貢献だと思ってやっている。少しでも収益が入って、持ち出しを多少賄ってくれればそれでよし、程度だ。

現時点では絵空事だが、この事業が安定して収益を創出するようになれば、更なる数学への再投資を続々と進めていきたい。具体的には、更なる記事執筆者の募集や、執筆謝礼の引き上げ、またより数学に適したユーザーインターフェースにするため、Webサイト自体へも投資していきたい。

●今後の課題

無論、課題もいくつか浮かび上がっている。例えば、一人で急速に立ち上げたためPukiwikiをベースに使用したが、どうしても見た目が安っぽい上に数学のDBを作る上で色々と不便な点が既に生じてしまっているのも現実だ。この辺は、読み手を意識したサイトを作るうえでケチってはいけない所でもあると認識しており、初期段階である今の時点で今後大きくテコ入れする予定である。

また「毎月ずっと執筆するつもりはないが、緩く協力したい」くらいの立ち位置の方々の協力を得ることも今後の課題であろう。改めて痛感するところであるが、数学的内容を記述するにあたって「一定の統一的な方向性を形成する」ことは非常に難しい。現在は約10人の方々に協力していただいているが、その中でも群の定義をどうするかだけでも大きな議論になる。無論協力者が多いのに越したことはないのだが、上手く方向性がまとまらないと議論が発散しがちなのも事実だ。この辺は、明確なMathpediaの記事コンセプトが確立するまでは、当面現在のメンバーでの模索が続くだろう。

何はともあれ、急速な立ち上げの中で第一歩がいい形で踏み出せたことには手ごたえを感じている。昨日も数理論理学の記事が反響を呼ぶなど、少しずつ市民からの認知が高まってきたのを感じる。今後もこういった形で定期的にMathpediaの進捗をたびたび報告していきたい。

Mathpedia運営1ヵ月」への2件のフィードバック

  1. お世話になります。
    寄付の要請はしないということですが
    私は寄付したいので窓口を作っていただきたいです。
    (主催者の人だけが金銭的負担を負うというのは心苦しいので)

    お手数をおかけしますがよろしくお願いします。

    いいね

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